ほんのちょっとだけ垣間見えた


きのう、十うん年間ずっとピアノを続けた人のピアノを聴かせてもらった。なんだか泣きそうになってしまった。


「最近全然弾いてないから」


そう言って困ったように笑うその人がピアノを弾き始めた瞬間、空気が変わった。

軽やかで楽しげなメロディー。そして曲調が突然荒々しくなり、どうしたらそんなに指が動くのかと考えてしまうくらいに忙しなく動く指。

びっくりするくらい華奢なひとが、全身を使ってピアノを弾いている。

その人が苦しくてもしんどくてもやめずに積み重ねてきたピアノ人生が、ほんのちょっとだけ垣間見えた気がして、鳥肌が止まらなかった。クラシックのことはおろか、音楽のこともさっぱりわからない。小中の音楽の授業でしかきちんと音楽と向き合ったことがない。楽譜もろくに読めない。


でもただただ胸が震えて、言語化できないくらい感動した。


グランドピアノを弾きこなす彼女が、一度プロになろうと考えて途中で挫折したこと。苦しいししんどいことも山ほどあったけど、それでもピアノをやめようと思ったことは一度もなかったこと。


そんな彼女の言葉が浮かんでは消えた。


その人のピアノは、今まで聴いたピアノ中で一番美しかった。



なにかひとつのことを極めて、努力をつづけたひとはどうしてこんなにもかっこいいんだろう。

私もそうなりたいなぁ、なれたらいいなというお話。